日本酒歳時記


粛気満つ大天大地寒造り   南秋草子

一般に、日本酒は十一月頃から三月頃まで連続して仕込まれます。近年では、日本酒の醸造作業にも、省力のための機械化工程がかなり取り入れられていますが、そうは言っても早朝から深夜にかけての作業が多い酒造りは、依然として厳しい労働です。とりわけ“更に衣を重ねる”という卯月(二月)は、寒気も一段と冴え、酒蔵はしんしんと冷えます。しかし、生まれつつある新酒の香りに、春の息吹を感じ、蔵人たちは日夜酒造りに励みます。
しぼりたての新酒のさわやかな味わいを賞味するには、かつては酒蔵を訪ねなくてはめったに口に出来ませんでしたが、現在は“初しぼり”“しぼりたて”などという名称をつけた壜詰品が多くの蔵元から発売されており、今や旬の味としてすっかり定着しています。

この時期は「酒蔵開放の日」を設けて酒蔵見学を積極的に行うところも多いので、酒造メーカーへ問い合わせてみてはいかがでしょうか。酒造りについての興味深い話を聞くことができるでしょうし、また、しぼりたての日本酒の醍醐味を体験できるかもしれません。

酒林(さかばやし)
春浅い酒蔵の軒先に青々とした酒林が飾られている風景がよく見られます。
これは杉玉ともいい、その年の新酒ができた知らせとして掲げられる酒屋の看板です。
新酒のころの深い緑の葉の色が、夏を過ぎて秋を迎えるにつれ、徐々に色を変えていきます。それは、さわやかな新酒の味わいから、枯淡ともいえる“冷やおろし”へと成熟していく、日本酒の味の推移を象徴しているかのようです。